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衛星開発パートナー企業訪問ツアー 実施

この度、小型SAR衛星「QPS-SAR」開発のパートナー企業様の事業内容について理解を深めるために、5社の企業訪問を実施いたしました。各社様、通常業務でお忙しい中、当社社員の訪問、意見交換の時間を快く受け入れてくださりありがとうございます。衛星開発のための心強いパートナーである地場企業様をぜひとも皆様にも知っていただきたく、当日の様子を一部ではありますがレポートの形でご紹介させていただきます。


AM9:00、入社間もない新しいメンバー5名と案内役となるPRチームの合計8名が車でQPS研究所本社を出発。この日は雲一つない快晴で、まさに見学日和。「大人の社会科見学」さながら、道中車内では今回訪問させていただく各社様情報の予習で盛り上がりました。高速を走ること数十分、最初の訪問先、オガワ機工株式会社様(以下:オガワ機工)が本社を構える福岡県久留米市に到着しました。

オガワ機工は主にマテリアルハンドリング機器をオーダーメイドで設計・製作をしている企業で、QPS-SARの筐体の設計・組立を行っています。今回、代表取締役社長 伊藤秀典氏(以下:伊藤社長)、取締役副社長 兼 戦略企画室 室長 伊藤慎二氏(以下:伊藤副社長)が出迎えてくださいました。開口一番、「宇宙産業への参入のチャレンジは思えば10年以上前ですね。『副社長の道楽』なんて当時は言われたりもしたんですよ(笑)」とお二人は口を揃えておっしゃいました。「とにかく、最初はQPS研究所創業者の八坂先生に『宇宙について学ばせてください』という感じでしたね」と伊藤副社長。しかし、オガワ機工では、QPS-SAR初号機の打上げ成功後、2号機からはさらに関わる社員を増やし、今では衛星の組み立てに常時6~7人が携わり、誰がやっても同じクオリティで仕上がるよう取り組んでくださっているそうです。さらにQPS-SARの初期製造の際の苦労話をはじめ、パートナー企業のみんなで無我夢中で意見を出し合い、現在の号機にいたるまでブラッシュアップしてきた経緯を語ってくださいました。「振動試験ではQPS研究所の福田さんや山下さん(当社エンジニア)と本当に頑張り続けました。『いい衛星を作り上げるんだ』という凄まじい熱量をみんなが持っていて、想いを共有しているので、一緒につくり上げていくことがとにかく楽しいんですよね」と伊藤副社長は続けます。

「チームで取り組めば『苦しみは割り算に、喜びは掛け算に』。同じ技術者でも『感性派』『企画派』など各人の違いを理解して、これからもお客様と話し合い、トライアル&エラーで改良していきたい」と伊藤社長は会社のこれからのビジョンも語ってくださいました。そして、来年50周年を迎えるオガワ機工。伊藤社長は「より先端的なものにチャレンジしていきたい。しかし変わらないために変わる。先代から受け継がれている『責任施工』を大切にしていきたい」と力強くお話しされました。

お二人の熱い言葉の余韻が冷めやらぬまま、製造現場で実際に製作されている筐体部分を見に行きました。開発以外の部署の社員にとって衛星の製作過程を直接見る機会は大変貴重で、各々が、「ここは奥はどうなっているんですか」「この仕組みの実現はどのように…?」など詳細な質問に、伊藤副社長がひとつひとつ丁寧にお答えくださいました。


次に向かったのは株式会社睦美化成様(以下:睦美化成)。睦美化成は主にフッ素樹脂コーティング施工を行っている企業です。睦美化成の代表取締役である當房睦仁氏は「円陣スペースエンジニアリングチーム(e-SET)」の理事長を務められ、ものづくり企業の集団であるe-SETを取りまとめていらっしゃいます。

當房氏はこの日の我々の訪問のために、e-SETの成り立ちから、QSAT-EOSプロジェクトに始まり、現在のQPS-SARの開発に携わるまでの歴史を事前に資料にまとめてくださり、仔細にご紹介くださいました。ことの始まりは、2007年「九州地域宇宙産業講演会」の聴講が宇宙産業参入へのきっかけだったそう。講演会ののち、「宇宙のことは全く分からなかったが取りあえず門を叩かんとしょうがない!」と、當房氏は九州大学を訪れました。そして、当時九州大学が指揮をとって活動していた「九州小型衛星の会」の勉強会に参加したそうです。ご用意いただいた資料には、約17年前に撮られたであろう、当時の写真。そこにはe-SETのメンバーをはじめ、八坂、桜井、舩越といったQPS研究所の創業者3名、さらには学生時代の当社代表取締役社長 CEO 大西の姿も!「みんな若いですね(笑)」「社長がまだ学生!」と、部屋はほのぼのとした雰囲気で盛り上がりました。

「我々はものづくりのプロフェッショナルです。学生さんたちの『こういうものを作りたい』というのを画にして形にしていく。学生さんは製造に関しての経験がないことが多いので、とんでもない図面を書くんです(笑)。それを作れるような構造にしていく。我々も宇宙のことを学びながら、『俺らがやらんといかん!』とサポートに携わりました」と當房氏は言います。「QPS-SARも1から一緒に取り組ませていただきました。衛星作りに携わることでe-SETメンバーのそれぞれの技術も向上しました。今後もどこもやっていないようなミッションに挑戦していきたい」、と當房氏は目をキラキラと輝かせながら語ってくださいました。


睦美化成を後にし、車を走らせることおよそ20分。次に向かったのは、産業用機器の部品加工を行っているアイアント工業様(以下:アイアント工業)です。アイアント工業はQPS-SARに使われている各種部品の加工・製作をしてくださっています。代表の馬場勝大氏は、今回我々に見学を楽しんでもらおうと、魅力的なツアープレゼンをご準備くださっていました。プレゼン資料によるご自身と会社の紹介から始まり、実際にQPS-SARで使用される部品を削る工程を披露してくださいました。QPS-SARオリジナルの数多くの部品を製作するため、指示図面から加工手順を検討するのが腕の見せ所で、必要とあらば専用の治具も製作されます。「各部品を細かく削り込み加工し、いかに軽量化を図るかがカギとなります」と馬場氏は言います。精巧なパーツの数々に当社スタッフからは「おおーっ、軽い」「こんなに細かく削られるんですね!」と馬場氏へ感嘆の眼差しを向けていました。

さらに馬場氏が子ども向けイベントで行っているクイズに挑戦し、QPS-SARにまつわる素材についても勉強させていただき、ネジ切り体験もさせていただきました。「私もやってみたいです!」と次々と大の大人である社員たちもはしゃぎながら楽しく参加させていただきました。


次にアイアント工業から車を走らせること5分。機械設備製造会社の株式会社ウメダ様(以下:ウメダ)に到着しました。ウメダではQPS-SARの筐体の製作を担当いただいています。車を降りるや否や、代表取締役社長 梅田昌弘氏がニコヤカに出迎えてくださいました。ウメダは、「オールインワンのモノづくり」を提唱していて、QPS-SARの筐体を初号機から担当いただいています。「QPS研究所は、最初は、おじいちゃん3人がやっていらっしゃる、という印象だったのですが、とにかく八坂先生はレベルが桁違いですよ。筐体の角度調整で試行錯誤している際、瞬時に放物線の計算をしちゃうんですよ。驚くことばかりです」と梅田氏がお話しされました。さらに梅田氏は、宇宙に放たれる自身の製作物に対し「はじめは『え?宇宙って落ちたらどうなる!?』とか思っていましたね。笑。でも、やったことないからまずはやってみよう!とにかく楽しそうな八坂先生と大西さんを見ていたらやりたくなるんですよ」と言います。お互いにアイデアを出しながら、『オールインワン』の筐体を製作していく過程が「図面は複雑ですが、楽しいですね」と梅田氏は笑顔で語ってくださいました。

それから実際の製作現場も見学させていただき、まさに「オールインワン」の製品を製作するための梅田氏の理念が整えられた各種製造・加工機械に、当社スタッフも興味津々で説明をうかがいました。


14:45、本日最後の訪問先、有限会社カネクラ加工様(以下:カネクラ加工)へ到着。カネクラ加工は自動車メーカー向け内装部品の加工製造を主力とし、裁断~縫製~組立まで一貫して行っている企業です。QPS-SARの要となるパラボラアンテナの金属メッシュの縫製をご担当いただいています。代表の石橋典広氏と製造管理部長の安田和義氏が、訪問に快く対応くださいました。安田氏はQPS-SARの製作に携わるようになった経緯をこうおっしゃいます。「當房さんから、アンテナ部分に使用する素材を縫ってくれるところを探していると相談いただき、『これを縫ってみてもらえるだろうか』と頼まれたんです。そのちょっと特殊なパワーメッシュを試しに縫ってみたところ、ご要望通りに縫えたんです。すると、『じゃあ、お願いしますって』言われてね」。さらに安田氏は「これを宇宙に持っていくと聞いて、それは面白い、よし、やってみよう、ってプロジェクトに参加することになりました。でも、宇宙環境はどうなっているか、当時は全くの未知でした。」と、続けられました。安田氏がおっしゃるように、無重力の宇宙空間では、布の“たわみ”の調整が重要です。「福田さんからデータをもらって、どのように縫製するか、試行錯誤しました」と安田氏は開発当初を振り返られました。今回の訪問では、タイミング的に実際にQPS-SARのアンテナ縫製の見学はかないませんでしたが、QPS-SARの縫製を担当いただいている選ばれし縫製担当者様のお仕事ぶりを拝見させていただきました。イレギュラーな我々見学者にお付き合いいただき誠にありがとうございます。


16時過ぎにほぼ1日に及ぶパートナー企業様訪問はあっという間に過ぎ、帰路へとつきました。西日が心地よく差し込む車内には、「今回の見学ツアーは勉強になりました」「パートナー企業の皆さんと直接お話しできる機会はありがたいですね」と各人の感想が溢れます。今回はパートナー企業のうち5社に見学のご協力をいただき、初めて各社を訪問させていただいた当社社員は改めてQPS-SARが数多くのパートナー企業様の技術力で支えられていることを実感できました。個人的にとても印象的だったのが、パートナー企業の皆さまが特に合わせているわけでもないのに全員がおっしゃっていたとあるひと言。『形にするのが私たちの仕事。これで九州に宇宙産業を根付かせることに貢献したい』。この言葉はとても心強く、頼りになるエンジニア集団がパートナーであることを誇らしく感じました。

改めて、ご対応いただいたパートナー企業の皆様、本日は貴重な機会をいただき誠にありがとうございました。今後もQPS研究所はパートナー企業様と共に、ミッション実現に向けて尽力いたします。